体脂肪計、体組成計など、常に先進の健康機器を提供している株式会社タニタ。
「タニタ食堂」などの外食事業や、医療費適正化パッケージの提供等の取り組みでも注目を集めています。
タニタは、2017年から新しい働き方の仕組みとして、「日本活性化プロジェクト」を行っており、こちらもまた革新に満ちた取り組みとして広く注目を集めています。
タニタの働き方改革
日本活性化プロジェクトとは
「日本活性化プロジェクト」という制度は、自社だけでなく他の企業や日本全体の活性化にも寄与できれば、という願いをこめて命名されました。
この制度は、社員を個人事業主(フリーランス)化するというものです。
希望した社員がいったん退職して、個人事業主として会社と業務委託契約を結び直すという制度なのです。
2017年に8名からスタートし、5年目までに31名が社員から個人事業主に転じました。
谷田社長は、インタビューでこう述べています。
「働かされている感」から社員を解き放つにはどうしたらいいだろうか――。そう考えて発想したのが、「社員という立場から解放する」という方法で、社員の個人事業主化だったのです。つまり、被雇用者ではなく、自分自身が経営者として自己裁量の権限を創出する機会をつくるという狙いでした。
(「タニタがゲーム!?」 話題の陰に個人事業主化あり 白河桃子 すごい働き方革命 STYLE NIKKEI 2021.9.17)
この制度は、タニタ独自の働き方改革ともいえます。
働き方改革というと、どうしても残業削減というイメージがついてきます。
タニタでは、働き方改革を進めるにあたり、残業時間ばかりではなく、「主体性」の問題にも着目をしています。
同じ労働時間でも、「働かされている」と感じれば、ストレスが溜まります。
一方で、自らの能力を伸ばすために主体的に取り組めば、やりがいも生まれてくるというものです。
例えば、漫画家という職業は、たくさんの締め切りがあるハードな仕事ですが、沢山の作品を生み出す人がいます。
漫画家には残業時間という概念はなく、休む暇もなく働いていますが、それでも多くの人たちがイキイキと働いています。
それは、漫画を描くという仕事が自分で決めたことであり、単行本の売り上げや読者の声のなどで、自分の仕事の成果が分かりやすいからでしょう。
日本活性化プロジェクトの仕組み
主体性を持って仕事を進めるために、「日本活性化プロジェクト」はどのような仕組みになっているのでしょうか。
「日本活性化プロジェクト」では、独立したメンバーの仕事の内容は、業務委託契約によって定められます。
これは、従来のメンバーシップ型雇用との大きな違いです。
メンバーシップ型雇用では、業務内容の範囲や、仕事の分担が曖昧になっています。
本人の希望と異なる業務が付け加えられることもあり、従業員が不平不満を抱き、モチベーションが低下するという問題もあります。
業務委託契約ならば、業務の範囲も明確で、将来の目標につながる仕事に集中することができるため、主体性を持って仕事をして行くことができるでしょう。
日本活性化プロジェクトのメリット
この仕組みのメリットは、年功序列によらない成果に応じた報酬が期待でき、手取り収入が増える可能性が高くなるということです。
第1期メンバーの手元現金の増減を比較すると、会社員時代の2016年に比べ、個人事業主となった2017年は、手元現金の増加率は最大で68.5%、最小で16.3%、平均すると28.6%となっており、全員、手取り収入が増えたことになります。
一方で、同時期の会社の負担は1.4%しか増えておらず、会社、個人事業主の双方とも損をしなかったことになります。
さらに、社内の他の部署や、他社からの仕事を請け負うことができるようになり、幅広い仕事にチャレンジして能力を向上させることもできます。
そして、社員の立場だとなかなかできないプロジェクトも実現できるようになります。
例えば、元社員のメンバーが関わった企画として、上野動物園のパンダ「シャンシャン」の誕生日記念歩数計や、セガゲームスとのコラボレーションによるゲームコントローラーの「ツインスティック」の開発といったものがあります。
また、セミナーや講演活動の依頼が急増しているというメンバーもいます。
個人事業主となったことで、メンバーが個人的に指名されることが増えたというのです。
このように、成果に応じた報酬が期待でき、仕事が会社の中だけでなく社会においても広く評価されるというのは、メンバーにとって強力な動機づけとなります。
自分の仕事が将来の夢につながるという実感も持てるので、より主体的に自分の仕事に取り組めるようになるのではないでしょうか。
会社員と個人事業主のいいとこどり
もちろん、会社をやめて個人事業主になることはリスクも伴います。
業務を安定的に受注できなければ、手取りの収入も会社員時代と比べて減少する可能性もありますし、それまで会社で加入していた厚生年金や健康保険から抜けて、自分で国民年金や国民健康保険に加入する必要があります。
そのことも踏まえ、「日本活性化プロジェクト」では、社員時代にやっていた業務を基本業務として契約し、社員時代の給与・賞与をベースとした金額が基本報酬として支払われます。
基本報酬には、これまで会社が負担していた社会保険料に相当する金額も含まれます。
また、基本業務とは別の追加業務が発生すると、成果報酬として支払われる仕組みとなっています。
さらに、契約の更新についても、「3年契約の1年更新」という方法を採用しています。
これは、タニタと独立した個人事業主が3年契約を締結し、1年が経過した時点で直近1年の成果を見て、次の業務内容・報酬を協議・調整して契約更新をするという方法になっています。
こうすることで、仮に契約を更新しないことになっても、残り2年間は契約が継続するため、その間に今後の方向性を考えることができるようになります。
以上のような仕組みであれば、会社を辞めて個人事業主になることのハードルも下がるのではないでしょうか。
個を活かすための「分化」とは
同志社大学の太田肇教授は、著書の中で、働き方改革やイノベーションの創出といった、現在の日本企業、日本社会が抱えている問題は、組織と個人の「分化」にかかっていると述べています。
太田教授は、「分化」について、以下のように定義しています。
「個人が組織や集団、あるいは他人から物理的、制度的、もしくは認識的に分けられること」
(太田肇 「なぜ日本企業は勝てなくなったのか 個を活かす『分化』の組織論」)
このことは、「個人が、自らの意志で仕事上の役割を果たすことで、対等な立場で組織と向かい合っていく」ことだと解釈できます。
逆に、分化が十分ではない組織とは、共同体としての性格をもっています。
そのような組織は、個人に対して、仕事上の役割を超えたつながりを求めます。
そこでは、個人に対し、組織の掟に従うことや、周りの人に合わせることを求めていきます。
仕事についても、個人がやりたいことよりも、組織のための仕事がいちばんに優先されます。
個人のキャリア形成についても、組織の意向に沿ってジョブローテーションが行われることが多くなります。
もちろん、いろいろな経験を積めるというメリットもあるのですが、「やらされている感」が強くなり、個人のモチベーションが低下するというデメリットがあります。
そこで、太田教授は、「仕事の分担を明確にし、裁量権を与えるとともに名前を明示して仕事をさせること」で個人のモチベーションをアップさせることができると述べています。
(太田肇 「なぜ日本企業は勝てなくなったのか 個を活かす『分化』の組織論」)
まさしく、タニタの「日本活性化プロジェクト」は、組織と個人の分化を進めるものと言えるでしょう。
個人の仕事上の役割を明確に定めるので、本人の希望に合った仕事ができるようになり、より主体的に仕事に取り組めるようになります。
独立したことで、個人的に指名されるようになり、セミナーや講演活動の依頼が急増しているというメンバーもいます。
まさに、名前を明示することで得られる効果です。
まとめ
タニタの取り組みのように、自分の能力や実績がより広く認められ、社会からも評価される機会を与えることは、大きな達成感を得ることにつながり、モチベーションの向上に絶大な効果があります。
努力次第で報酬も高まり、自分の仕事が社会からの評価に直結するということが、強力なモチベーションアップに繋がるのです。
そしてこのことは、会社にも利益をもたらすことになります。
このように、個人のモチベーションを最大限にまで高めることは、これからの働き方においては重要になってきます。
タニタのように、会社の利益と、個人の利益が一致する、どちらも損をしない働き方を実現しているタニタの取り組みこそ、日本の働き方を変えていく大きなヒントになるのではないでしょうか。
タニタの取り組みをもっと深く理解する場合は、以下の書籍がオススメです。
本書は、「日本活性化プロジェクト」の全容が語りつくされています。
実際に個人事業主になったメンバーのインタビューも掲載されており、個人事業主となったことで実に生き生きと働いている姿勢が伝わってきます。