聖戦士ダンバインは、1983年2月に放送を開始したSFファンタジーアニメです。
ドラゴンクエストのブームよりも先に、中世ヨーロッパを思わせる異世界を舞台に設定した作品であり、
現代の日本で生活していた主人公が異世界に転生して大活躍するという、「なろう小説」の元祖ともいえる、様々な要素が取り入れられた意欲作です。
この作品では「組織と人」が存分に描かれており、伝統的な日本企業によくある「タテ社会」と「家の論理」が分かってくるのです。
前編では、日本によくある社会集団は、所属する職場といったような「場」の共有により構成されており、その「場」には、先輩・後輩のタテの序列があるということを取り上げました。
後編でも引き続き、この作品を通して日本における「タテ社会」と「家の論理」を見ていきます。
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タテ社会の構造
「タテ社会」は横線のないピラミッド
かつての日本にあった「家」(現代の核家族ではなく、明治以前の日本にあった、商家や農家といった「生活共同体」のことです。生活共同体とは、その家のメンバーが生活様式や生活の基盤を共有している、閉鎖的な集団です。)や、
現代の「会社」といったような、「場」を強調する日本の社会集団においては、そのメンバーはタテの関係で結びついていて、先輩・後輩といった序列関係があります。
社会人類学者・東京大学名誉教授の中根千枝先生は、著書「タテ社会の人間関係」において、このような社会集団の構造を以下のように図示しています。
タテの関係が強い集団は、この図のように横線の無いピラミッドの構造になっています。
Aをリーダーとすると、B、C、Dはその傘下に位置する存在となります。
B、C、Dにヨコのつながりはありません。
Aを頂点とした関係で全員がつながっているのです。
Aがいなくなれば、この集団組織は存続しないのです。
そしてまた、この集団組織のリーダーの地位には、一人しかつけないという制約があります。
そのため、カリスマ社長の突然の死などは必ずと言っていいほどお家騒動を引き起こすことになります。
ヨコの関係がないということは、ヨコ同士で連携する場合においても、トップの協力を得る必要があるということです。
この図の例でいえば、Bがどれだけ優秀でも、Cを自分の思うがままに動かすことは困難です。
どうしてもCに動いてもらいたい場合は、Aに頼みこんでCに協力を要請するしかありません。
そして、中根先生は、このような構造を持つ小集団が数珠つなぎになって同じ構造を持つ大きな集団が形成されると述べています。
会社組織でいえば、A支店・B事業部といったような、毎日顔を合わせる小集団があり、この小集団が連続してつながっていくことによって、一つの会社が構成されることになります。
ダンバインは「タテ社会」の勢力争い
「聖戦士ダンバイン」において、敵役のドレイク・ルフトが、自らの君主であるアの国のフラオン・エルフ国王を攻撃したのも、このタテ社会のピラミッド構造があるからです。
アの国の組織構造を図字すると、以下のようになります。
ドレイク・ルフトは、アの国の中にある一地方領主に過ぎないので、自分の傘下にいる地方領主しか動かせません。
ギブン家をはじめとする、それ以外の地方領主を動かすことはできないのです。
ドレイクにバイストン・ウェル全土を掌握したいという野望があっても、アの国の全ての地方領主を動かさなければその野望を実現することはできません。
しかし、そのことはアの国の国王にならなければ出来ないことであり、国王には一人しか就けないという制約があります。
そこで、一番手っ取り早いのは、ドレイク自らが国王の座に収まることなのです。
そのために、フラオン国王の居城を攻撃して王座を乗っ取ったのです。
そうなってくると、ドレイクが国王になるのは嫌だからアの国を抜け出すという地方領主も出てくるでしょう。
元々、アの国の地方領主はフラオン国王を頂点として繋がっていた関係です。
フラオン国王がいなくなれば、地方領主同士での争いも本格化していきます。
それ以前からもドレイクのルフト家と仲が悪かったギブン家は、アの国を抜け出して反ドレイク勢力に加わっていきます。
主人公のショウ・ザマもそこに加わって、ドレイク軍と戦っていくことになります。
「聖戦士ダンバイン」は、まさにタテ社会の勢力争いという図式なんですね。
家の論理ー階統制と能力主義
このようなタテ社会を構成する単位である「家」には、「家の論理」というルールがあります。
立教大学名誉教授の経営学者、三戸公(みとただし)先生は、「家」の組織原則は「階統制」と「能力主義」であると述べています。(三戸公 家の論理1)
階統制とは
「階統制」とは、三戸先生によると以下のようになっています。
「統=スジによって、人間が区別され差別され、それぞれの人がいかなる統に属するかによって
経営内における処遇がそれによって差別されるということである。
すなわち、統=スジに階層をもうける制度である。」
(三戸公 「家」としての日本社会)
ここでいう「統=スジ」とは、血統・民族・言語・宗派・出自・学歴などです。
これによって、組織内での処遇が決まってくるということです。
農家・商家といった「家」では、メンバーは家族と非家族から成っています。
家族の中でも、直系(父祖からまっすぐつながる関係。祖父、親、子、孫)と傍系(共同の始祖を通じてつながる関係。兄弟、いとこ)といったスジの違いで、「家」の内部での処遇が決まってきます。
直系に生まれてくると、家督相続人となり、家長になることができます。
また、傍系のなかでも、親族が非親族より優遇されます。
「中年者」という中途採用者や、下男、下女は、非家族メンバーとして処遇されており、別家といったような今でいう独立開業の可能性はありませんでした。
現代の日本の会社でも、形を変えた階統制があります。
家族メンバーである正社員と、非家族メンバーである非正社員に分かれます。
正社員の中でも、出世コースとそうでないコースに分かれており、どのポジションまで登れるかは、どの大学を卒業しているかでおおよそ決まってきます。
パート・アルバイトという非正社員は従業員組合にも入れず、景気変動によって自由に解雇されたり等、正社員とは明確に処遇が異なります。
このように、現代の日本の会社には「学歴」「雇用形態」等の「統=スジ」があるのです。
ダンバインにおける階統制
「聖戦士ダンバイン」のドレイク軍においても、階統制があります。
バイストン・ウェルに暮らす人はコモンと呼ばれるのですが、現実世界から召喚された地上人(ちじょうびと)はそのコモンよりもオーラ力が高く、オーラバトラーのパイロットとしての素養があります。
そのため、地上人は強力な機体に優先的に搭乗できるなど、好待遇を受けることになります。
また、コモンの中でも、オーラ力の高低により、処遇に差があります。
その例として、第4話で、コモンのガラリア・ニャムヒーが戦闘で大きなミスを犯し、その名誉を挽回するために技術者のショット・ウエポンにオーラバトラーの使用を願い出たところ、
「あなたには、バーンほどのオーラ力もない。オーラバトラーに乗るのは、危険極まりない。」と断られてしまいます。
オーラバトラーに搭乗できるのは、ドレイク軍の中でもごく一部のエリート戦士だけです。
それ以外の戦士は、非人型のオーラボムというオーラバトラーよりも性能の劣る機体に搭乗したり、あるいは、鎧を着て馬に乗り、剣を振るって突撃を敢行するという、中世の騎士と変わらない戦い方をするのです。
このように、ドレイク軍では、組織の構成員の処遇が明確に分かれるという、階統制を取っているのです。
能力主義とは
そして、もう一つの「家」の組織原則が、能力主義です。
「家」が無くなるということは、その「家」のメンバーが職を失い路頭に迷うことを意味します。
「家」の存続を危うくするような者は、たとえ直系であっても家督相続人にするわけにはいかないのです。
そこで、全く血のつながらない他人の子を婿養子として迎え、「家」を継がせるということもあるのです。
「家」は生活共同体であり会社としての機能もあるため、簡単にはつぶせないのです。
現代の日本の会社でも、階統制と同時に能力主義も貫かれています。
ブランド校以外の大卒、あるいは高卒でも社長になったという事例はいくらでもありますし、会社の存続のために、創業者一族を排除するということもあるのです。
ダンバインにおける能力主義
「聖戦士ダンバイン」の第4話でも、ルフト家の領主であるドレイク・ルフトが、リムル・ルフトという一人娘の話題になった際に、こう言っています。
「娘に厳しさは要求せぬ。美しく誰からも好かれる女性であってくれればよい。」
「ワシは血縁なんぞ、百害あって一利なしと考えている。実力だ。力だよ。」
「動乱となれば親子も兄弟もない。下剋上が世の習いなら、討たれるべき王を力あるものが討ち滅ぼし、世を平定する。そのためのオーラ・バトラーであり、聖戦士なのだ」
この発言こそ、まさに能力主義を表すものでしょう。
リムルは、敵対勢力のギブン家のニー・ギブンと恋仲であり、ドレイク側の情報を流したり、何度もドレイク家を抜け出そうとしています。
こんなことをしていては、とてもドレイク家の後継者にはなれないでしょう。
ドレイクとしては、リムルはどこかの国の王の元に嫁がせ、その代わりに、ルフト家の断絶を防ぐために優秀な人間を養子に迎える、ということも考えていたのではないでしょうか。
ダンバインとイデオンの違い
これは、「伝説巨神イデオン」の敵役のドバ・アジバとは対照的です。
ドバはバッフ・クラン軍の総司令という立場ですが、長女のハルル・アジバが女性として生まれたことを嘆き悲しんでいました。
ハルルは優秀な軍人でありドバの後継者として申し分は無かったのですが、ドバとしては、後継者は「自分の血を引く男性こそがふさわしい」と思っていたのでしょう。
ドレイクがドバの立場だったら、婿養子を取れば済んだ話です。
ドバの考え方は、中国や韓国のような父系血縁社会としての考え方に近いです。
社会人類学者の中根千枝先生は、結婚した男女と生家の関係を、社会人類学の視点からいくつかの型に分類しています。
その分類に従うと、中国の伝統的大家族制では、娘は生家を出て、息子は生家にとどまることになっています。
また、韓国では、息子一人だけ生家にとどまり、長男を家に残すことになっていますが、息子のいない場合は、父系につながる甥など、父系血族の男子にかぎって養子になることが出来るようになっています。
これらの社会では「家」の後継者として、男子であることが重視されます。
このことは、ドバの血縁に対する考え方にも似ていますね。
一方、ドレイクは必ずしも血縁にはこだわらないという、日本的な「家」の考え方だったのです。
まとめ
以上述べてきたように、「聖戦士ダンバイン」を見ると、現代の日本にもある「タテ社会」と「家の論理」が分かってきます。
まだまだこれ以外にも、「タテ社会」と「家の論理」が見え隠れする場面が出てきます。
このような目線で見てみると、この作品から新たな発見ができると思います。
この作品は、ロボットアニメの新しい楽しみ方を提供してくれるのです。
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