第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンは、次の名言を残しています。
「本当に人を試したかったら、権力を与えてみることだ」
この言葉は、人間は権力を持つことで本性をさらけ出すという意味です。
皆さんも、昇進した途端に高圧的になった上司を見たことがあるのではないでしょうか。
本作は、そんな人物がもたらす悲劇を描いた作品です。
大尉の軍服という偽りの権力を手に入れた上等兵が、残虐な殺戮者に変貌していく様子を描いているのです。
このことは、サラリーマンにとっても決して他人事とは言えないでしょう。
この記事では、そのことを考察していきたいと思います。
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作品情報
予告動画
スタッフ・キャスト
- 監督:ロベルト・シュベンケ
- 製作:フリーダー・シュライヒ、イレーネ・フォン・アルベルティ
- 脚本:ロベルト・シュベンケ
- 撮影:フロリアン・バルハウス
- 編集:ミハウ・チャルネツキ
- 音楽:マルティン・トートゥシャロウ
- キャスト:マックス・フーバッヒャー(ヴィリー・ヘロルト)、ミラン・ペシェル(フライターク)、フレデリック・ラウ(キピンスキー)、ベルント・ヘルシャー(シュッテ)、ワルデマー・コブス(ハンゼン)
権力とはなにか
「Position Power」と「Personal Power」
㈱リンクCEO、人材育成コンサルタントの能町光香さんは、権力を「Position Power(ポジションによるパワー)」と、「Personal Power(人間力)」の2つに分類しています。
「Position Power」は、部下への支持命令を行い、異動させ、処罰を与え、報酬を決定するといった権限のことです。
「Personal Power」はリーダーに必要な知識や知恵、部下に慕われる人間力のことです。
そして、リーダーは「Position Power」と「Personal Power」の両方を持ち合わせていなければならないと述べています。
しかし、会社においては「Personal Power」が無いのに、支店長や部長といったリーダーに昇進するという事例はよくあります。
「Personal Power」を持たない人間が「Position Power」を手に入れると、どうなるのか?
部下への高圧的な指導や、パワーハラスメントを行うようになります。
「Personal Power」があれば、そのことで自分の優位性を示せばよいのですが、「Position Power」しかないので、自分の権力を振りかざすことで優位性を示そうとするのです。
昇進した途端に人が変わる上司が出てくる背景には、こうした構造があったんですね。
リンカーン大統領の名言「本当に人を試したかったら、権力を与えてみることだ」は、まさにその通りなのです。
権力の座につけてみることで、しっかりとした「Personal Power」を持っている人物なのか、それとも、「Position Power」しか持たない権力を振りかざすだけの人物なのか、そのことがハッキリと分かるのです。
私の会社にも、「Position Power」しか持たないタイプの上司がいました。
この上司は、部長になった途端に威張り散らすようになったのですが、数年後に役職定年になり権力を失うと、それまでご機嫌取りをしてきた部下も離れていき、誰からも相手にされなくなりました。
この上司には人間力というものが決定的に欠けていたのでしょう。
偽りの権力者の暴走
「エムスラントの処刑人」という実話
本作に登場するヴィリー・へロルトは、実在の人物です。
本作は、偽りの権力に溺れたへロルトが残虐な殺戮者に変貌していくという実話を元にした作品なのですが、サラリーマンにとっても決して他人事ではありません。
へロルトは、上等兵でありながら将校の身分を詐称して多数の敗残兵を指揮下に収め、収容所の囚人を大量に虐殺したことで知られており、「エムスラントの処刑人」と呼ばれています。
1945年3月、ドイツ=オランダ国境近くの戦闘で脱走したへロルトは、逃亡の道すがら、軍用車の残骸の中から空軍大尉の軍服を発見します。
その軍服を着用したへロルトは、一人の敗残兵と遭遇します。
その敗残兵は、大尉の軍服を着ているだけのへロルトが本物の大尉であると思い込み、へロルトに指示を仰いできます。
へロルトは敗残兵に自分の指揮下に入るように命じ、その後も、放浪の道中で出会った多数の敗残兵を指揮下に収めていきます。
へロルトは途中で憲兵の取り調べを受けますが、へロルトがあまりにも堂々とした態度を取っていたため、憲兵もへロルトが大尉であることを信じ込みます。
ヘロルトは、この時わずか19歳でした。
そして1945年4月、へロルトたちはエムスラント収容所のアシェンドルフ湿原支所に到達します。
そこには、ドイツ国防軍の脱走兵や政治犯約3,000人が収容されていました。
へロルトは「自分はヒトラー総統の命令を受けている」と嘘をつき、野戦裁判所を設置して囚人たちの処刑を決定します。
収容所の幹部たちも、中央からの処罰を恐れてか、へロルトの嘘を信じてしまいます。
こうして、囚人たちは自分たちを埋める穴を掘らされたあげく、高射機関砲、機関銃、手榴弾により処刑されていきました。
その数は、2日間でなんと172人にも達しています。
その後に収容所が英軍の爆撃で壊滅すると、ヘロイトたちは再び放浪しながら戦争犯罪を重ねていくのでした。
こうした権力の暴走は、へロルトが「Position Power」だけしか持たないリーダーであったことが原因です。
脱走兵のへロルトは、当然、大尉としての専門教育など受けておらず、「Personal Power(人間力)」は備わっていない人間です。
軍服を身につけたことによる「Position Power(ポジションによるパワー)」しかない人間であり、自らの権力を誇示するために、残虐な処刑や犯罪行為を行っていったのでしょう。
まとめ:「ちいさな独裁者」は現代にもいる
職場でのパワハラやいじめは、品性・良識の無い人物が権力を手にすることで起こります。
そのような人物は、権力以外に自分の優位性を示す手段がありません。
そのため、高圧的な指導など、権力を振りかざすことで自らの優位性を誇示するのです。
へロルトのように、本来は高い地位に就けてはダメな人物だったのです。
本作で監督を務めたロベルト・シュヴェンケは、予告編でこのメッセージを送っています。
彼らは私たちで、私たちは彼らだ。
過去は現在なのだー。
現代の会社という組織でも、へロルトのように権力を振りかざす人物、すなわちちいさな独裁者はたくさん存在します。
権力の暴走を生まないためにも、全ての組織人が見るべき映画と言えます。
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