映画「帰ってきたヒトラー」は、「もしヒトラーが現代にタイムスリップしてきたらどうなるか?」ということを描いたブラックコメディです。
完成度の高いコスプレ芸人だと思われていたヒトラーが、たちまちインフルエンサーとして成り上がり、大衆のカリスマとして崇められてくというストーリーです。
本作を見ると、ヒトラーの用いた「人を動かす」テクニックや、民主主義の持っている危うさが分かってきます。
この記事では、史実のヒトラーのテクニックと本作の描写も交えながら、そのことを考察していきたいと思います。
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現代に蘇ったヒトラー
この物語は、1945年4月のベルリン陥落に伴い自殺したと思われていたヒトラーが、2014年の現代にタイムスリップしてくるところから始まります。
その風貌と立ち振る舞いを見た周囲の人々は、彼のことをヒトラーのコスプレをしたモノマネ芸人だと思い込みます。
そこで人々が、試しに話を振ってみると、ヒトラーはかつての調子で演説を披露します。
それがあまりにも当時のヒトラーにソックリなので、人々も大ウケします。(本人がやっているので当たり前です。)
現代社会に表れた「ヒトラー」というインパクト、その立ち振る舞いの完成度の高さ、そしてメディアの力で、ヒトラーはあっという間に稀代のインフルエンサーへと成長していきます。
初めはヒトラーをイロモノ扱いしていた聴衆も、ヒトラーの演説に引きずり込まれ、その主張に耳を傾けるようになっていきます。
こうしてヒトラーは、大衆のオモチャ的な存在を脱して、政治的な象徴へと一気に駆け上がっていくのです。
現代でも通用する「人を動かす」テクニック
史実のヒトラーは、人々を動かすために数々のテクニックを駆使していました。
本作でも、タイムスリップしたヒトラーが同じテクニックを用いており、それが現代でも通用することを見せつけています。
「沈黙」
史実のヒトラーが用いたテクニックは、なんといっても「沈黙」です。
演説の場で「沈黙」を活用することで人々の気持ちをコントロールしていました。
演説の場に現れたヒトラーは、群衆が自分に注目するまでじっと沈黙を貫きます。
沈黙により群衆の注意を引きつけ、「これから何を話すんだろう」という期待感が高まったところで、最初の言葉を発しました。
こうすることで、自分の言葉に強烈な印象と説得力を与えたのです。
本作でも、タリムスリップしたヒトラーがTVの生放送に出演することになりますが、最初はじっと沈黙を守っています。
ヒトラーが何もしゃべらないので、これは放送事故かと、周りのスタッフは焦りはじめます。
そしてその緊張が最高潮に達したところで、ヒトラーは言葉を発するのです。
完璧なタイミングで放たれた言葉は、視聴者に強烈なインパクトを与え、やがて彼は大衆の心を掴んでいきます。
「あえて言う」
また、史実のヒトラーは、大衆が何を聞きたがっているのかをよくわかっていました。
高い失業率などのドイツの現実や、ユダヤ人に対する不満など、人が心の中で思っていても表立って言えないことを、ヒトラーは口に出して語りました。
大衆が聞きたい言葉を口に出して聞かせることで、大衆の感情を高揚させたのです。
だからこそ、ヒトラーの演説には圧倒的な人気があったのです。
本作でも、タイムスリップしたヒトラーは問題をなるべく単純化し、「テレビはドイツ人にとっての敵だ」などと、視聴者が聞きたがっていた言葉を投げかけ、大衆の支持を集めていきます。
「優しさ」
史実のヒトラーには優しい一面もあったという証言があります。
ヒトラーが、とある村に立ち寄った時のことです。
ヒトラーが村に住む幼い少女と話をする機会があり、偶然その日が少女の誕生日だと知ったヒトラーは、ケーキやおもちゃなどのプレゼントを買い与えたというのです。
その他にも、秘書に誕生日プレゼントを直に渡したり、側近たちにも思慮深かったという記録があります。
もちろん、計算してやっていた可能性も大いにあるのですが、人をコントロールするには優しさも欠かせないということでしょう。
本作でも、タイムスリップしたヒトラーは記念撮影に気軽に応じたり、民衆の意見をじっくりと聞いたりと、ソフトな一面を見せています。
作品を見ていると、独裁者のイメージとは裏腹に、「あれ?この人、結構いい人かも…。」と思わされたりします。
そう思っているうちに、自然とヒトラーの政治的主張に耳を傾けてしまうのです。
それこそが、ヒトラーのテクニックなのです。
民主主義の持つ危うさとは?
政治家はインフルエンサーたれ
政治家は、どれだけ素晴らしい政策を打ち出しても、それが人から注目を集めなければ意味がありません。
政治家には、多数のフォロワーを抱える、インフルエンサーとしての魅力が求められるのです。
そしてそのことは、政治家を選ぶということが、政策によるものではなく、ただの人気投票になってしまうという危険性とも紙一重となっています。
単なる人気投票で選ばれた政治家が、国民を蔑ろにした政治を行わないとも限りません。
絶大な人気を背景にドイツの指導者へと成り上がった史実のヒトラーが、あれだけの暴走をしたのがいい例です。
本作は、こうした現代の民主主義の危うさ、ポピュリズムに陥る危険性に対して警鐘を鳴らしています。
ヒトラーはコメディアン?
「ヒトラーのワンダーランド」を書いたマイケル・フライは、史実のヒトラーが演説するのを初めて見た時に、「完全にコメディアンだと思った」と記しています。
しかしながら、演説が始まって20分も経過する頃には、ヒトラーの言葉から伝わってくる説得力や真実性を感じ、自分もすっかり盛り上がっていたというのです。
ヒトラーのような熱情的な人物は、初めはコメディアンだと笑われます。
しかし、その熱情が一貫性を持って粘り強く続けられれば、人々の関心を集め、やがて大きな支持が得られるのです。
現代社会においても、ここに大きな危険性が潜んでいます。
現代にタイムスリップしてきたヒトラーは、現代社会とは相容れない存在であり、そのギャップが面白くて大衆はヒトラーを笑いものにしています。
しかしながら、ヒトラーは至って真面目で、その知名度・人気が拡大する過程で、政治的な象徴としての支持を集めていくのです。
「みんな最初は笑ってた」
本作では、タイムスリップしたヒトラーがユダヤ人の老女と会うシーンがあり、彼女はこう言っています。
あの頃とそっくりだよ。言うこともまるっきり同じ。昔も、みんな最初は笑ってた。
(帰ってきたヒトラー)
みんな最初は笑ってた、つまり、史実のヒトラーも最初はコメディアンのような人気だったのです。
その人気がさらなる人気を呼び、多数のフォロワーを集め、史実のヒトラーを当代きってのインフルエンサーに成長させ、強大な政治権力者の地位にまで押し上げたのです。
本作でも、タイムスリップしたヒトラーはこう言っています。
1933年も国民はプロパガンダで騙されてはいない。彼らが指導者を選んだ。明確に道筋を示した指導者を。国民が私を選んだ。
(帰ってきたヒトラー)
まさにその通りです。
1933年当時のヒトラーを選んだのは国民だったのです。
まとめ
本作からは、人を惹きつけるインフルエンサーのテクニックを学ぶことができます。
それと同時に、インフルエンサーに熱狂する人々の危うさも描いています。
いくらインフルエンサーだからといって、選ぶ人間を間違えたら、権力を暴走させることにもなるのです。
本作は、このような民主主義の危うさに警鐘を鳴らしている作品です。
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