夫の職業や学歴、会社内での地位、子供の通っている学校、将来の進路など、さまざまなことでマウントを取り合い、格付けをしあう主婦たちのドロドロとした世界・・・。
顔で笑って心でバチバチと殴り合うマウント合戦は、見ているだけなら極上のエンターテイメントなのです。
今回の記事では、「海外の日本人コミュニティー」「タワーマンション」「大企業の社宅」を舞台に、主婦たちの世界を描いた3つの作品を紹介します。
ママ友付き合いを題材にした作品 3選
『ホライズン』 小島慶子
ホライズン (文春e-book)
南半球のとある国(おそらくオーストラリア)を舞台に、日本人のコミュニティーに属する4人の日本人妻の交流を描いています。
著者は、TBSの元アナウンサーで、現在はエッセイストやラジオパーソナリティとしても活躍しており、本作は二作目の小説となります。
著者は商社マンの父親を持っていたことから、幼少期を海外で過ごしており、その時の経験が作品にも生かされています。
日本人コミュニティーは、狭いがゆえに、様々な職業・立場の人が同じ場所に集まってくることになり、会社での上下関係や、職業のランクが、駐在妻の人間関係に影響しやすくなって、階層が生まれてきます。
夫の学歴や職業、さらには、妻の学歴や日本にいた時の職業、容姿など、様々な基準で採点され、ランク付けがなされています。
食事会のシーンでも、顔で笑っていても、心の中では相手をけなすというようなマウント合戦が繰り広げられます。
お互いに共闘するかと思ったら、後で悪口・陰口を言ったりもします。
小説という表現方法をフルに生かして、会話をしながら、モノローグ(独白)で相手の悪口を言いまくる、という場面もよく出てきます。
この作品では、外国の雄大で美しい自然や、そこに住む大らかな心を持つ人々が描かれており、それだけに主人公のコミュニティーの狭苦しさ・息苦しさが余計に際立ってくるようになっています。
『ハピネス』 桐野夏生
ハピネス ハピネス・ロンリネス (光文社文庫)
本作は、都内のタワーマンションに暮らすママ友たちの交流を描いています。
もうすぐ子供が幼稚園の受験を迎える5人のママ友たちは一見すると仲良さげですが、住む場所やファッション、主人の職業や子供のお受験などで様々なランク付けがあります。
会話で漏れ出てくる本音に、それぞれの持っている差別意識が見え隠れして、ママ友会でも緊張感が漂っています。
本作のママ友たちは、「子供の名前+ママ」という名前でお互いを呼び合っています。
「自分は何者なのか」「自分は何ができるのか」という視点が一切ないんですね。
その世界に馴染めない一人の母親がこう語ります。
「ママ友たちと話してても、みんな上品でしょう?何か違う、と思ってたの。あの人たちの興味って、口には出さないけど、お受験じゃない。子どもの未来を考えることが、自分の未来に繋がると信じてる。でもあたしは真似できないなあ、と思ってたの。だって、あたしの人生は美雨の人生じゃないもん。あたしの人生はあたしだけのものだもの。」
(ハピネス 桐野夏生)
このセリフに、子供という他者を通しての自己実現しか考えていない他のママ友への疑問が表れています。
自分の人生を生きたいという、心の叫びでもあるのです。
このように本作では、ママ友付き合いの「あるある」をリアルに描写しています。
『夕陽ヶ丘三号館』 有吉佐和子
夕陽ヵ丘三号館 (文春文庫)
1970年代の高度経済成長期の一流商社の社宅を舞台に、そこに暮らす主婦たちの人間関係を描いた作品です。
社宅という狭い世界の序列関係に縛られ、子供の教育に熱を上げる主婦たちの姿が描かれています。
主人公も一人息子の教育問題を気にするあまり、同じ社宅に住む主婦同士のパワーゲームに巻き込まれていきます。
社宅の世界では、ストレスのはけ口として、悪口、陰口、告げ口、噂話、監視、デマが溢れています。
そこに繰り広げられる、ドロドロとした人間ドラマ、主婦同士の情報戦などなど、リアルな人間描写が特色の長編エンターテイメントになっています。
本作には、子供は一流の進路に進ませたいと、さまざまな思いを巡らせる主婦たちが出てくるのですが、その一人がこう語ります。
「夫に限界を感じれば、女はやはり子供に生きることになるんじゃないかしら、陳腐な解釈だけど」
(夕陽ヶ丘三号館 有吉佐和子)
このセリフからも、狭い世界で格付を上げるためには、他者を通しての自己実現しかないと主婦たちが考えていることが分かってきます。
まとめ
今回の記事では、ママ友付き合いを題材にした小説を3つ紹介しました。
どの作品もママ友付き合いの「あるある」をリアルに描写しており、ママ友付き合いに疲れたという方も、今回紹介した作品を読んでみることをオススメします。